社長に求愛されました
口出ししたくなる自分に気づき、そんなの面倒だと賭けに専念しようとして。
それでも口を挟みたくなるほどに心配していてくれたのかと、未だ怒ったみたいに眉を吊り上げる綾子にちえりが困り顔で笑う。
嬉しかった。
こんな風に心配してくれる綾子が。
出来る事なら、その気持ちに応えたかった。頑張りたかった。
……でも。
「でも私……もう決めたんです。社長から離れるって」
そう漏らしたちえりを、綾子はじっと見つめていた。
「離れない限り、私は社長を拒めないから。
拒んで、社長の傷ついた顔を見ているなんてできないから……だから離れるって、昨日決めたんです」
長い沈黙があった。
部屋にある置時計の秒針だけが響く空間で、ちえりは目を伏せていた。
だけどその瞳には揺るぎがない事をじっと見定めた綾子が、やっと口を開く。
「いいのね? それで」
確認する言葉に、ちえりは視線を上げてゆっくりと頷いた。