社長に求愛されました
「いいのよ、ちえりちゃんはゆっくりしてて。
それに、言うほどお客さんもこないしね。手伝ってもらっても暇つぶしにもならないから、くつろいでて」
「あ……うん。じゃあ」
「ああ、それ、その雑誌。ちょっと買ってみたんだけど、私には若すぎたからよかったら読んでて」
指さされた方を見ると、20代がターゲット層と思われるファッション雑誌がテーブルの端に置かれていた。
表紙からしてちえりや綾子が読むような雑誌であって、洋子が好き好んで読むとはおもえないようなものだった。
気の若い洋子らしいなとふっと笑った後、静かになったリビングで、ちえりがその雑誌に手を伸ばす。
そしてぱらぱらとめくりながら、篤紀の事を考えていた。
時間は11時前。
8時半には綾子が辞表を出してくれたと考えると、それからもう3時間が経とうとしていた。
辞表と一緒に託したのは、クリーニングに出したドレスとストール、そして髪飾りとネックレス。
何て書けばいいのか分からなかった辞表には、今日を持って辞めさせてもらうという事と、それに対する謝罪、それと今月分のバイト代はいらないという事を書いて封を閉じた。