社長に求愛されました


篤紀には、ここの場所は教えていない。
ホームページもないし、引き取ってもらった先の名字さえ知らない篤紀には、この場所を見つけるのはほぼ不可能だ。
バイト募集の際書いた履歴書には、アパートの住所と携帯の番号と、高瀬ちえりとしか書いていない。
中谷のなの字もなければ、住所も電話番号も知らないのだ。

篤紀が知っている情報とすれば、お弁当屋を営んでいるという事だけだし、その情報だけで見つけ出そうとはしないだろう。
そんな風に考えながら、ちえりがぱらぱらとページをめくっていた手を止める。

アパートに来る可能性がある以上、引き払って引っ越すべきかとも考えたが、それにはお金がかかりすぎる。
更新も終えたばかりの事を考えるとあまり得策だとは思えなかったため、一週間ほど中谷家に泊めてもらってから戻るつもりだった。

そこからは、黒崎会計事務所の業務時間外はインターホンを電源ごと落とすか、居留守を使うかするしかない。
以前のように深夜はコンビニのバイトを入れて、篤紀が自由になる時間はすべてバイトに費やせばすれ違いで会う事もないし、それも一つの策だ。


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