社長に求愛されました
「おまえが言うならきっとそうだと思うし、それを不幸だって言うなら俺は何も言い返せない」
すべてを肯定する篤紀に、ちえりの瞳に涙が浮かび始める。
篤紀は、別れの言葉を言うために自分を探していたのだと、ここにきてちえりが気づく。
自分が人づてに頼んだ別れでは納得できずに、わざわざ探しに来たのだと。
そしてそれは、真っ直ぐな篤紀らしいと、じくじくと痛む胸でそんな事を考えていた。
覚悟していたのに、別れの言葉を篤紀の口から言われるのがこんなにもツラいなんて……。
綾子に辞表を託した時以上の痛みがちえりの全身を襲う。
まるで鋭利な刃物で四方から突き刺されているような、そんな感覚だった。
痛みと恐怖と悲しみで、唇が震え、涙が筋をつくって頬を流れ落ちる。
もしかしたら自分は、篤紀から別れの言葉を言われたくなかったから、自ら身を引いたのかもしれない。
そんな風に思いながらも、今ここで目を逸らしてはいけないのだと必死に篤紀の瞳を見つめた。
別れから、逃げちゃダメなのだと。
そんなちえりを見つめる篤紀が、ゆっくりと口を開き――。
「じゃあ、悪いけど。
俺と一緒に不幸になって欲しい」
別れの言葉ではなく、永遠の約束ともとれる言葉を告げた。