社長に求愛されました
「嫌なんです。社長の好意に甘えているみたいで」
ちえりが言った言葉に、篤紀はそれの何がいけないんだというような口調で返す。
「甘えたっていいじゃねぇか。おまえは普段から俺をまったくといって頼ってこないんだから、こんな時くらい素直に好意を受け取れよ」
「それに……」
「それに?」
呟くようにそう言って黙ってしまったちえりに、篤紀が先を促すように聞く。
いつもはっきりと物を言うちえりが黙るなんて珍しい、よほど言いにくい事なのだろうかと、篤紀は背もたれから背中を離してテーブルに両腕を置くようにしてちえりを見つめた。
そんな篤紀をちらっと見た後、ちえりは目を伏せてようやく口を開く。
「それに、もしも私たちの関係が今と変わった場合……例えば、社長と私の間が上手くいかなくなった場合、付き人なんて続けられないじゃないですか」
新しく用意してもらった仕事が、今までしてきた仕事と何の関係もない事、好意に甘えるのが嫌な事、自分に都合がよすぎる事。
異動の話を快く受けられない理由は色々あるが、ちえりの中で最終的に頷けない理由は実はそこにあった。
篤紀が構ってくれている今でこそもらえる話であって、今の関係がどこかで壊れてしまったら自分はどうなるのか。
そこが一番不安だった。