社長に求愛されました
篤紀がずっと、自分が近づくのを待っていてくれているのは知っていた。
自分が三年と言えば、分かったじゃあ三年な、と軽く待ってしまうくらい従順に待ってくれているのは、嫌ってほど分かっていた。
でもまさか、篤紀が今手を広げて待っていてくれている場所が既に、不幸の霧の中だとは思いもしなかったし……そんなの、詭弁だとも思う。
だってどう考えても篤紀が今現在不幸だとは思えない。
そう思い眉を寄せるちえりを見つめながら篤紀が微笑む。
「おまえが飛び込んできてくれればそれだけで俺は救われし、その時点でそこは不幸でもなんでもなくなる。
でも、おまえに見捨てられたらこのまま溺れて不幸に堕ちていくだけだ」
きゅっと握られる手が、温かい。
見上げてくる篤紀の瞳が、優しい。
言っている事はまるでヘタレでダメ男なのに、伝わってくるぬくもりと気持ちだけで、それを許せてしまう自分にちえりが呆れて笑みをこぼす。
「まぁ、そういう事だから。悪いけど、覚悟決めて飛び込んできて欲しい。
おまえにとっては、俺のいる場所は居心地が悪いかもしれないけど……おまえの幸せは俺がちゃんと考えるから。
俺、考え事とか苦手だけど、それだけは多分、いくら考えても飽きない自信がある」
そう言い切る篤紀を、呆れて笑みを浮かべたままちえりが見つめた。