社長に求愛されました
飛び込む覚悟なんか、とっくにできていた。
篤紀がプリンスホテル・Kの御曹司だと聞いた時からずっと。
ただそれでも篤紀の幸せを願うからこそ、そうしなかっただけで。
篤紀の気持ちが自分に向いていて、それが本気だという事は分かっていたが、例え自分が離れても篤紀の進む未来にはたくさんの幸せがちりばめられていると思った。
だから、その幸せを掴んで欲しくて身を引いたのだ。
だけど当の本人である篤紀が、ちえりが飛び込まなければそれこそ不幸だと言い張るのなら……。
その先、立ち直る事もできずにまともに生きていけないと言うのであれば、遠慮して飛び込まない理由なんてない。
ちえりが何よりも望んでいるのは、篤紀自身の幸せなのだから。
ちえりが、篤紀を見つめたまま聞く。
「反対する人が出てきても、殴りかかったりしないで平和な話し合いで解決するって約束しますか?」
「……なるべくな」
「仕事、ちゃんとしますか?」
「今もちゃんとしてるだろ、そこそこ……でもまぁするよ」
「じゃあ……私をずっと、好きでいてくれますか?」
「ああ」
最後の質問にまであっさりとテンポよく答えた篤紀にちえりが驚くと、篤紀は何呆けてんだと笑う。