社長に求愛されました

「分かった。弁当食べたら会社行って働いてくる……。
ああ、でもおまえも来いよ。辞表、受け取らなかった事にするから、今まで通り事務所で働いてくれよな」

せめてそれぐらい言う事聞けという篤紀に、ちえりは困り顔で微笑んでそれを受け入れる。

本来なら一度出した辞表を撤回するのはちえりの意思にそぐわない事なのだが、篤紀がこう言ってくれるのなら……と素直に頷く。

「働かせて頂きます。また、よろしくお願いします」

バイトとして社長にペコリと頭を下げたちえりに、篤紀は微笑んで「おう」と答えた後……ちえりの機嫌を窺うようにして言う。

「じゃあ……今の続きは仕事が終わってからな？」

期待を込めた瞳はまるで懐いている犬のように見えてしまって。
可愛らしい愛犬に、ちえりが笑みをこぼした。

「仕事中、しっかり“待て”ができたらですね」

犬扱いするちえりに、篤紀は苦笑いを浮かべて……それからふたりして顔を合わせて笑った。