社長に求愛されました
洋子からもらったお弁当を食べてから向かった黒崎会計事務所で、ちえりは社員に温かく迎えられた。
やっぱり高瀬さんがいないと仕事が溜まっちゃって、などという嬉しい言葉から、高瀬さんがいないと社長が動かなくて……といった困った言葉まで全身に浴びながら辿りついたいつものデスク。
辞表を出したのが朝なのだから変わっていなくて当たり前だけれど、変わっていない自分のデスクを見ると、戻ってこれた事が嬉しくてちえりに笑みがこぼれる。
「言っておくけど私のせいじゃないからね。
社長は、高瀬から預かった物と辞表を渡したらたいして説明も聞かずに、下田さんたちの全力の制止も振り切って出て行っちゃったんだから。
下田さんなんか、顎に社長の頭突きくらって、今湿布してんのよ。
アメフトのディフェンス陣でも雇わない限りあれは止められなかったわ」
隣の席に座った綾子に言われて、ちえりが苦笑いを浮かべる。
向かい合わせになっているデスクの右端に座る下田の顎には、確かに白い湿布が張ってあった。
篤紀よりも上背もありがたいもいい下田。高校大学と野球部だった彼を頭突きで仕留めたというのは、その時の篤紀はよほど必死だったという事だ。