社長に求愛されました
ちえりに言われた篤紀は、下田に視線をやり「悪かったな、下田」と不貞腐れた口調ではあるが、素直に謝る。
そんな篤紀に、下田は「いいっすよ。ふたりが上手く行ったなら俺の顎くらい全然安いもんです!」と心の広さを再度見せつけた。
よかったですね、社長!と笑顔を向ける下田に、他の社員も同じように祝福の意味の笑顔を向けると、篤紀は照れたのかそっぽを向いて「……まぁな」とボソっと答える。
綾子の言うように、確かに普通の会計事務所にはない光景かもしれないとちえりが笑みをこぼしていると、「高瀬もよかったわね」と隣から言われた。
見ると、やれやれといった笑みを浮かべる綾子と目が合う。
「やっとしっかり想い伝えられたんでしょ?」
「あ……はい」
「昨日、辞表を受け取った時には本当にあのままダメになるかと思ったわ……。
よかったわね」
「はい……。ありがとうございま……」
「いい? 後で絶対に詳細報告するのよ。あれだけ協力してあげたんだから」
「……はい」
言い方こそ恩着せがましいが、綾子も真剣にふたりの事を心配していたのだ。
だからこそ、喜びもひとしおなのだが、それを素直に表せるタイプじゃないだけで。
……とはいえ。
「……綾子さん、顔がにやついてますが」
「ああ、口角下がらないように練習してるの」
「そうなんですか……。綾子さん、美容関係あんまり興味ないのに」
「つい最近興味が出てきたのよ」