社長に求愛されました
普通の20歳の女の子だったら、容姿端麗の御曹司に見初められて付き人になれなんて事を言われたら、舞い上がって二つ返事をするかもしれないが、ちえりは違った。
篤紀からあからさまな好意を見せられても、感情だけで判断するような事はまずない。
先の事を考えて不安になり、立ち止まってしまう。
それは育った環境にあるのかもしれないが、そんなちえりの冷静さは長所でもあり、同時に短所でもあった。
ただ感情を優先させて、好きだという気持ちのまま行動していれば、篤紀との関係も今のようなややこしい事にならずにすんでいたというのに。
「社長が私を気にかけてくれてるのは分かってます。色々とよくしてくれてますし、感謝しています。
でも、付き人なんて、社長と私の今の関係だからできる事であって、もしも関係が壊れたら……」
「壊れるって、なんで?」
遮るように言った篤紀に視線を上げると、真剣な瞳と目が合う。
さきほどの不機嫌な瞳よりも今の方が怖く感じながら、ちえりが続ける。
「なんでって……例えば、社長がお見合いとかしたり」
「俺は見合いはしない」
「じゃあ……恋愛の末、結婚したり」
「おまえとの関係が壊れるような結婚はしない。
……つーか、もうおまえだって気づいてるだろ。俺が誰と付き合って結婚したいのか」