社長に求愛されました
いつもはニヤだとかニだとか、嫌な予感を感じさせる笑顔はするけれど、こんな風ににまにましているのは珍しい。
もしかしたら自分と篤紀の事を本当に喜んでくれているのだろうか。そう思い聞いていたちえりだったが、タイミングよくかかってきた電話にそれを止められる。
「ほら高瀬、電話電話」
綾子にそう急かされて、受話器を取る。
「はい。黒崎会計事務所、高瀬です」
『あ、高瀬さん? 白石出版の白石です』
和美からの電話に、あ……と声をもらしたまま、ちえりが一瞬言葉を失う。
けれど、和美が白石出版と名乗ったのを思い出し、仕事の電話なのに呆けている場合ではないとハっとし。
「いつもお世話になっております」
慌ててそう挨拶する。
『やだ、他人行儀ね。いいのよ、私相手にそんなかしこまらなくても』
「……うん。でも仕事の話なんでしょう? 担当に変わった方がいいなら今……」
『あ、いいの。今からちょっとそっちに伺うって伝えたかっただけだから』
「え、今から?」
『うん。父と一緒に、土曜日のパーティのお礼を言いに。午後は黒崎社長いらっしゃる?』