社長に求愛されました


「綾子さん、聞き耳立ててると失礼ですよ」
「いいじゃない。バレなきゃ大丈夫でしょ。それに和美さんが一緒なら保守が必要な情報話すわけでもなさそうだし」
「それはそうでしょうけど……。とりあえず、ドアに張り付くのはいいんですけど、お茶運びたいのでいったん退いてもらえませんか?
そのままドア開けたら盗み聞きしてるのバレちゃいますよ」

綾子がドアを開けても見えない場所に隠れたのを確認してから、ちえりがドアを三回ノックして「失礼します」と中に入る。
部屋の中はなんだか異様な雰囲気に包まれていた。

狼と化け狐とでもいったところだろうか。
表面上では穏やかに会話しつつも、牽制しつつのいがみ合いが目に見えるようだった。

「いやぁ、突然帰るなんて言うのでどうしたのかと思ってたんですよ」
「すみません。いいパーティーだったのでつい飲みすぎてしまって。ご迷惑がかかる前にと席を外したかったんです。
せっかくのめでたい席ですから」

話題は言わずもがな土曜日のレセプションパーティーの事だ。
まぁ、なんだか分からないが主催者側がそのお礼にきているのだから、その話になるのは当然の事。

ちえりは、応接室のテーブルの傍にしゃがみ、まず白石の前にお茶を置く。
そんなちえりにチラリと視線を移した白石は、篤紀に困り顔で微笑んで見せた。

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