社長に求愛されました


「いやね、黒崎社長があまりにこの高瀬さんを構うものだから、内心心配してるんですよ」

急に自分の名前を出されたちえりが驚いて白石を見上げると、薄笑いを浮かべた瞳と目が合った。

まるで見下しているような、施しでも与えられているようなそんな笑みに戸惑いながらも……。
覚悟を決めるという篤紀との約束に、そのままじっと白石を見つめ返す。
目を逸らしたら自分の生い立ちがやましいとでも言っているように思えて嫌だった。

御曹司である篤紀と並ぶとなると顔をしかめられるかもしれないとも考えるが、ちえり自身は母親の事や代わりに育ててくれた洋子たちの事を当然ながら恥じているわけではないのだから。

自分自身の事を不幸だとも思わないし、むしろ心配してくれる洋子や弟の慎一がいるのだから幸せだと思える。

今までは篤紀の隣にいるのはふさわしくないと思い逸らしてきた目。
だけど、そこはもう覚悟を決めたのだから、ちえりには目を逸らして逃げる理由はなかった。

物怖じしない、純粋な瞳に見上げられる形になった白石は、真正面から見てしまったちえりの可愛らしさに一瞬動揺しつつも、気を取り直したように咳払いをし篤紀に視線を向ける。






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