社長に求愛されました
クスっと笑いながらちえりを見る和美に、篤紀よりも白石の方がオロオロしているから不思議だ。
恐らくは自分の娘のために、専務娘の結婚披露と銘打って篤紀を呼び寄せるためのパーティーを開き、今日だってふたりを近づかせるために出向いたというのに。
今までちえりの話を和美から聞いてはいたものの、本人をしっかりと見た事はなかったため、ちえりを前に動揺を隠せないのだ。
ちえりの愛らしい外見は、篤紀だけではなくどうやら白石にも有効らしかった。
それこそ愛人にでもしてくれ可愛がってくれそうだ。もちろんそんな事は篤紀が許すハズがないが。
移動したちえりが、和美の前にお茶を出す姿を眺めながら少し黙っていた篤紀。
珍しく真剣に何か考えを巡らせているようだったが、ちえりが自分の前にお茶を出し目が合った瞬間、ふっと微笑んでゆっくりと口を開く。
「でも、実際はそのまさかなんですけどね」
え……っと、声を詰まらせた三人が篤紀を見る。
もちろん、その三人とは、白石と和美、そしてちえりだ。あと、恐らく、ドアの外で張り付いてる社員が綾子を筆頭に数人いたが、幸い、漏らした声は部屋の中にまでは届かなかった。
「付き合っているというか、許婚とでも言うんですかね。将来を約束している関係なんです」
にっこりとレアな笑顔を浮かべる篤紀に思わず黙っていた和美がハっとして言い返す。