社長に求愛されました
「でも、高瀬さんはただのバイトで……っ」
「職業で人を好きになるわけではないですから。和美さんだって、大学生だからという事を理由に男に振られた経験はないでしょう?」
「それはそうですけど……。でも、高瀬さんは普通の家に育ったんですよ? 黒崎社長ほど立場のある方は同じレベルの方との方が……」
「うちの家系はその辺本人の自由なので大丈夫なんですよ。もう、父にも話はしていますが、賛成してくれてますし。
それに、恥ずかしい話ですがもう一年以上片思いしてやっと手に入れたので、例え誰に反対されたところで手離すつもりはないんです」
そこまでハッキリと宣言されてしまえばもう、和美は何も言えないわけで。
さすがにちえりを心底好きだというオーラを発する篤紀を目の前に、ちえりなんかとじゃ似合わない、私の方がよっぽど……!と訴えるほどプライドを捨てる事はできない。
和美が篤紀への好意をきちんとハッキリとした言葉にする前だからこそ、ここで素直に引く事で彼女のプライドは守られるのだ。
だからこそのこのタイミング。
もしも好きだの付き合ってほしいだのと和美が言い出した後だったのなら、篤紀はちえりを選ぶことで和美を否定しなくてはいけなくなる。
けれども、態度こそ好き好き言っていたものの、和美はまだ篤紀への恋心を口に出してはいない。