社長に求愛されました
「私事ですし、わざわざ片思いしているだとか付き合っているだとか、そういう話をする必要はないかと思いまして。
それに、仕事熱心な白石社長の前でそんな個人的な恋愛話なんてできませんよ」
牽制だった。
仕事の関係に、恋愛事情を持ち込んでくるなという、白石と和美への。
言葉の裏に隠された真意に気づいてか気づかずか、白石はそれもそうですねと苦笑いにもとれる笑みを浮かべ、和美は相変わらず黙り込んでいた。
「ところで、今日の用件の事なんですが」
畳み掛けるようにそう切り出した篤紀に、白石は焦ったように和美に視線を向ける。
ずっと黙っていた和美は、何かを吹っ切るようにぐっと顔を上げ、篤紀を見つめた。
「今日は、先日のパーティーに来て頂いたお礼に伺っただけですので、これで失礼します」
そうですか、と篤紀が微笑むと、白石はいいのか?とでも言いたそうに和美を見る。
そんな白石に和美はいいのとでも言うように目配せをし、すっと立ち上がり……篤紀の発言のせいで去り際を逃し、お盆を抱えたままただ立ちすくんでいたちえりを見た。