社長に求愛されました
自分だったらそれを言われた時点ですぐに言い返していたし、当然簡単に許しはしない。プライドがあるからだ。
それを微笑んで許すというちえりにはプライドがないという事なのだろうか……と考えた和美が、ちえりの真っ直ぐな真摯な瞳を見て、プライドの問題ではないのかもしれないと不意に思う。
プライドの高さではなく、想いの大きさや深さの問題なのではないかと。
結局和美は、自分のプライドよりも大事だと思えるほど篤紀の事を好きではなかったのだ。
そしてこのふたりはきっと、自分のプライドよりも相手の方が大事なんだという事が、お互いに向けられる視線や態度から垣間見れた気がした。
つまり、優先順位の差だ……。
さきほど漠然と頭に浮かんだ敗北宣言の意味をようやく分かった和美が、苦笑いをこぼしてから隣にいる白石に帰ろうと声をかける。
そして何か言いたそうな白石を歩くよう促して事務所を出ようとしたところで、和美が篤紀たちを振り返った。
「私、大学を出たら父の会社を継ぐ予定なんです。その時はよろしくお願いします」
仕事の話を持ち出したのは、和美なりのけじめのつもりだった。
今までは恋愛感情のみで篤紀に接していたが、次会う時はきっと仕事でという事になる。
つまり、諦めると、そういう意味合いだった。