社長に求愛されました
言葉の裏に隠された真意に気づいた篤紀は、微笑んで「こちらこそ」と一言答えた。
和美はそんな篤紀から、今度はその隣に立つちえりに視線を移してわずかに微笑む。
「考えてみたけど、私にはジュリエットは無理だわ。何もかも捨てて逃避行するなんて、できないもの。
その点、高瀬さんなら捨てるモノも少なくてすむしいいんじゃないかしら」
嫌味にも聞こえる言葉に一瞬驚いたちえりだったが、笑みをこぼし、そうかもねと頷いた。
素直ではないものの、篤紀との仲を認めたという事が分かったからだ。
和美らしいと思って笑みを浮かべるちえりに、和美はじゃあねと残し、事務所のドアを閉めた。
……途端。
「なに、最後の言葉! 嫌味?! ここまできてまだ嫌味言ってったわけ?」
給湯室で聞き耳を立てていた綾子が出てきて、閉められたドアに向かって顔をしかめる。
「途中までは、プライドが高いだけでそんな悪い女でもなかったのかって思ってたのに、最後のアレはないでしょー。
高瀬の事完全にバカにしてたじゃない。社長もそう思いません?」
話を振られた篤紀は、顎のあたりを手で触りながら顔をしかめる。