社長に求愛されました
「俺はそれよりも白石社長の方が気に入らねぇ。ちえりの事変な目で見やがって……。
早く代表和美さんに代わんねぇかな。もうそれまでは白石社長の前にちえりを出すのはやめる。
ムサい男……ああ、下田あたりを連れてく事にする」
とんだとばっちりを受けた下田が、自分の席で「えー、俺っすか?」と嫌そうな声を上げたのを見て笑ってから、ちえりがゆっくりと綾子に言う。
「最後のは、嫌味じゃないと思います。
それに……多分、私、ジュリエットになりたかったから、嫌味だとしても気になりません」
「ジュリエット?」
「好きだって気持ちだけで突っ走れるようになれたらってずっと思ってたから」
ああ、そういう事、と納得した綾子が、確かにそうねと微笑む。
ずっと気持ちのまま素直に走り出したかったのにそれができなかったちえりには、あれも立派な褒め言葉だったのかもしれないと。
「でもラスト死ぬのよ、ジュリエットって」
そんな事を言う綾子に笑ってから、出したお茶を片づけようと応接室に戻ろうとしたちえりが、一度篤紀を振り返る。
そして、にこっと微笑んだ。