社長に求愛されました
……一体何部屋あるのだろう。
篤紀の部屋に足を踏み入れたちえりが最初に浮かべたのがその疑問だった。
定時になった途端に篤紀に強引に仕事を終わりにされて、有無を言わさずここまで連れてこられたちえりは、玄関先で立ち止まっていた。
だだっ広いエントランスに入った時点で、ああやっぱり高級マンションだなと思ってはいたけれど……。
自分の思い浮かべていたものよりも数段レベルが高そうだと、プリンスホテル・Kの御曹司への認識の甘さを痛感する。
ちえりの前には長い廊下が一本真っ直ぐに走っていて、その先にはどうやらリビングダイニングがあるようだった。
それは分かるのだが……問題は、廊下の左右にあるドアの数。
洗面所とお風呂場、それとトイレ。あと考えられるのは寝室。その三つの部屋に繋がるためのドアは分かるのだが、ドアの数は全部で五枚。
残り二枚のドアの説明がつかない。
どういう事だろうと目をパチパチしていると、不意に玄関のドアが開いた。
そして入ってきた篤紀が驚く。
「ずっとここにいたのか? 入ってればよかっただろ」
「いえ……勝手に上がるのもどうかと思って」