社長に求愛されました


事務所で拉致されて、そのまま篤紀の車に乗せられイタリアンに連れて行かれたのが二時間前。
その後そこで食事をしてまた車に乗せられ、アパートに送ってくれるのかと思いきや、知らないマンションの駐車場に車は止まり。
照れているのか、ぶっきらぼうに「少し、寄ってけば」と言われ、そこでようやくちえりはここが篤紀の住むマンションだと気づいたのだ。

ここまで来ておいて帰るとも言い出せず、照れてる様子の篤紀も可愛かったから、「じゃあお言葉に甘えて少しだけ」とちえりが答えると、篤紀はホっとしたような微笑みを浮かべた。

そして部屋の前まできたはよかったが、そこで篤紀が車に忘れ物をしたと言い出して。
ちえりを玄関に入れると、「適当に座ってろ」と残し車に行ってしまったのだ。

最初こそ、じゃあ上がらせてもらおうかと考えたちえりだったが、目の前に広がる光景を見た途端、そんな考えは飛んでいってしまった。

「それに、どこの部屋に上がっていればいいのかも分からなくて」
「ああ、突き当りがリビングだから。
悪い、言っていけばよかったな」
「あ、いえ」

そう言って靴を脱いで歩いていく篤紀に、ちえりがおどおどしながら続く。
この間のパーティー会場と同様、場違いな気がしてしまう。

個人の家に対してこんな事を思うのはどうなんだとも思ったが、実際、そう思わずにはいられない広さがあるのだから仕方ない。




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