社長に求愛されました
廊下を抜けてついたリビングは、対面式キッチンとダイニングを合わせて20畳弱はある広さだった。
ここにベッドを置いても広さ的にはなんの問題もなさそうだが、それがないという事は、やっぱりさっきのドアのうちのどれかが寝室という事だろう。
「……床、タイルなんですね」
「ん? ああ、冷たい?」
「いえ、そういう意味じゃなくて……。普通のおうちで床がタイルって初めてだったので」
フローリングか畳のイメージしかなかったちえりの固定概念が崩される。
一人暮らしの部屋という概念からいえば、エントランスやら部屋数やらでとっくに崩壊しているのだが。
黒に近いグレー一色のタイルが敷き詰められたリビングダイニングには、白いカーペットが敷いてありその上にガラスのローテーブルが置いてある。
その近くには黒い革のソファー、そして少し距離をとって、ソファーと向かい合うような形でテレビボードとテレビ。
ダウンライトは白とオレンジの間くらいに光っていて落ち着いた雰囲気だった。
座るように言われたソファーにそっと腰を下ろすと、その隣に置かれている、ラック式の本棚が目に入った。
入っているのは、「会計監査六法 平成XX年版」といったような、会計や税理に関係する本ばかりだったが、料理の本も数冊あるのが見て取れた。