社長に求愛されました
「気付いてますよ。そんなの、とっくに」
「だったら……」
「でも社長はこれからプリンスホテル・Kを継ぐ人でしょう?
だったら身分にあった方と結婚しなくちゃダメなんじゃないですか?」
ちえりが言葉にしたのはもっともな疑問だった。
プリンスホテル・Kの御曹司ともなれば、結婚する相手もそれ相応の地位のある女性の方が色々といいに決まっている……ハズなのに。
篤紀は、まるでちえりが間抜けな冗談でも言ったようにケタケタと笑った。
「そんなん、大昔の話だろ。今は恋愛も結婚も自由だし心配ねぇよ」
「普通だったらそうでしょうけど、社長みたいに立場のある人はちゃんと……」
「立場なんか関係ないし、おまえは何も心配する必要はない。
俺が誰と結婚しようが自由だし、誰にも反対させねぇから」
そこで一息置いた篤紀が、ちえりをじっと見つめてからふいっと目を逸らしてから呟くようにして続ける。
「おまえがその気になるまで、俺、待つから。
おまえが俺のところに来てくれるなら……何年でも待てるから」
――知りたくなんかなかったのに。
篤紀に想われる温かさもテンポよく跳ねる鼓動も、彼のクセもなにもかも。
頭がクラクラするのを感じながら、ちえりが顔をしかめて俯いた。