社長に求愛されました


「別に俺の前でまで我慢して飲む必要ねぇだろ。
それに俺も会社ではコーヒーばっか飲んでるから、家でまで飲みたいとも思わねぇし」
「えっ、もしかしてあまり好きじゃないんですか?」
「いや、普通。そんなに驚く事か?」
「だって社長、コーヒー入れて持って行くと必ず飲みきるからてっきり好きなんだと……」

10時と3時にコーヒーを社員に入れるのはちえりの仕事のひとつでもある。
もちろん、その時の気分もあるだろうしと毎回入れる前に「コーヒー入れますけど、いる人ー」と挙手してもらって希望をとるのだが、篤紀は毎回それに手を上げる。

一年やってきて毎回手を上げるたのは篤紀だけ。
だから、よほどコーヒーが好きなんだなぁと勝手に思っていたちえりだったのだが……。

別に好きではなく普通だという返事にちえりが顔をしかめていると、篤紀はバツが悪そうに目を逸らす。

「だって、おまえがせっかく入れてくれんだから……頼むしかないし、飲むしかないだろ」

ボソボソと言う篤紀に、ちえりが一瞬ぽかんとしてから、おかしくなって笑う。
おかしくなってというより、呆れかえってしまってという表現の方が正しそうだ。





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