社長に求愛されました


若干、不安そうにも見える表情を浮かべるちえりに、篤紀はくしゃっと髪に手を差し込みながら未だまったくといって整理しきれていない言葉を集め口にする。
格好よくビシっと!と思っていたが、ちえりに不安な顔をさせてまで守りたいプライドなんて篤紀にはないのだ。

「真面目なとこ、意外と気が強いとか、冷静でしっかりしてるとか……好きだと思うところはすげぇあるんだ。
意地っ張りなとこも、気を許した相手には少し生意気になるとか、そういうところも好きだし。
外見ももちろん好きだし。真っ直ぐな物怖じしない目とか……柔らかく笑うとことか、そういうのも」

ボソボソと言っていた篤紀が、ちえりに視線を移す。
そして、困ったように微笑んだ。

「そういう具体的な理由ももちろん好きな理由ではあるんだけど……でも、そういうのじゃねぇんだ。
うまく説明できないけど……おまえといるとしっくりくるし、一緒に過ごすうちにどんどん、すげぇスピードで俺ん中にちえりの存在が入り込んできて……。
気付いたら、ちえりが俺の一部になってた」

くしゃっと、また篤紀が髪をかきあげるように手を差し込む。
それから困り顔で微笑んだ表情はそのまま、目を伏せた。

「だから多分、おまえがいなくなったら俺はこの世界でどう生きていけばいいのか分からなくなる」

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