社長に求愛されました
篤紀がハッキリとそう言った後、少しの沈黙があった。
今言った事は格好つけようのない本音だったのだが、やっぱりもう少し考えて発言した方がよかったかもしれない。
何も言わないちえりに不安になった篤紀が、そろっと視線をちえりに向ける。
「なんか悪い。また情けない事言って……」
そう言いながら向けた視線の先で、ちえりが涙ぐんでいる事に気づき、篤紀の言葉が止まる。
「なっ、どうした……? 俺、変な事言ったか?」
タイミングからして自分が言った言葉のせいだと思った篤紀が、ちえりに向き合うようにして顔を覗き込む。
愛の告白のつもりが泣かせてしまったと、慌てる篤紀に、ちえりは首を振り……そして柔らかく微笑んだ。
「嬉しかったんです。私も、社長と同じ気持ちだったから」
「同じ……?」
「同じです。昨日、綾子さんに辞表を渡してから社長が連れ戻しにきてくれるまで……私の世界は真っ暗でした。
自分がどこにいるのかも、何をすればいいのかも、何も分からなかったし……あのままだったらきっと何もできなかった」
微笑んだままのちえりの瞳を覆った涙が、オレンジ色のライトにキラキラと光る。