社長に求愛されました



「ちえり、今何考えてる?」

篤紀の言葉に、ちえりははぁ……と大きなため息を落とした。
数メートル先の自分の席に座る篤紀の耳にも聞こえるように、わざと大げさに。

それもそのハズ。
篤紀のこの質問は今日に入って八回目なのだから、ため息もつきたくなる。

デスクの上にたまっている仕事そっちのけでじっと見つめてくる篤紀に、ちえりは手元の資料から視線を移さずに答える。

「社長が仕事をしてくれないかなって考えてます」

カタカタというパソコンの音やら、書類にボールペンを走らせる音が小さく聞こえる事務所内。
綾子たち社員は、耳を全力で篤紀とちえりの会話に傾けながら仕事に精を出していた。

「はー……。ダメだ。仕事になんかなんねーよ」

今日出社してから今まで大した仕事をしていない篤紀の言葉に、ちえりが顔をしかめる。

「ちゃんとしてください、仕事」
「仕方ねーだろ、どっちみち俺は今日は仕事休むつもりだったんだよ。
仕事する気分でもなかったし。それをおまえが無理やり引っ張ってくるから」
「当たり前じゃないですか! 体調が悪いわけじゃないのに急に休むなんて社会人として失格です!
それに、社長が仕事ちゃんとするからって条件で朝からあんな事……」





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