社長に求愛されました
洋子の言うようにふらふらしていて、大学にも周りが行くからなんとなく行っているといった感じだし、恋愛に対しても興味が薄い。
家を出るまではちえりも歩とそういった話もしたのだが、相手が告白してきたから付き合い、別れようと言ってきたから別れるという事を繰り返していて、そこに歩の気持ちは正直感じられなかった。
生きる事自体に興味がない、そんな無気力な男が歩だ。
だから、結婚してもいいよなんて言葉が何の意味も感情もないのが分かっているちえりにとっては、歩の言葉は気にもならないのだが。
気になるのは、洋子が賛成しているという事だった。
確かに、篤紀との事も言っていないし、今まで好きな人がいたという話もした事がない。
だったら歩と……と思っても、そこまで不思議じゃないと思うのは、先日、篤紀との別れを決意し帰った時、そんなような話をしていたからだ。
『でも、ちえりちゃんが歩のお嫁さんになってくれたら私も安心だわー。
お店も歩も任せられるもの』
『従兄妹なら結婚もできるんだし、ちょっとちえりちゃん本当に考えてみてくれない?』
あの時の言葉がまさか本気だとは思っていなかったちえりが、苦笑いを浮かべながら綾子を見た。