社長に求愛されました
「とりあえず、今日にでも戻ってちゃんと話を聞いてみるつもりです。
おばさんがどれくらい本気で言ってるのかも分からないし」
「聞いてみて、ものすごい本気だったらどうするの?」
ちえりが「それは……」と言いかけたところで、やけに静かなオフィスに気付く。
話し声はしなくてもいいとしても、キーボードを打つ音も雑音も何も聞こえてこないこの静けさは異常だ。
そう思い、そっと給湯室から顔を出してみると、給湯室前には壁に背中を預けいる篤紀がいて。
どうやら立ち聞きしていたらしい篤紀の向こうには、こちらの様子を固唾を飲んで見守っている社員の姿があった。
「あれ、社長。やっぱり気になるんですか?」
給湯室から顔を覗かせた綾子が言うと、篤紀が「当たり前だろ」と顔をしかめる。
「せっかく俺のモンにしたって言うのにその翌日に他の男からプロポーズされて、気になんねーわけがねーだろ。
それにあっくんあっくんって、やたら親しそうに呼びやがって」
「だからってこんな立ち聞きしなくても……。
今綾子さんと話してたのは、朝社長に話した事と同じです。
とりあえず、今日帰ってちゃんと話してきますから」