社長に求愛されました


ため息をつきながら言うちえりが、コーヒーの入ったトレーを持ちながらオフィスに戻ろうとすると。
ちえりの後ろを、不貞腐れたような顔をした篤紀が歩く。

ちえりが洋子と話す場に同席したいのが本音だった。
けれど、いくら付き合い始めたとは言え、そこまで自分が踏み込んでいいのかも疑問だし、それにちえりと洋子たちの関係は少し特殊だ。
ちえりが、普通親に抱く感謝の気持ち以上のものを洋子たちに抱いているのは知っているし、色々事情もあるだろう。
変に自分がしゃしゃり出ない方がいいという事も分かる。

だとすれば、ちえりからの報告を大人しく待つべきなのだが。

ちえりが義理堅い事を知っているからこそ、不安だった。
今まで世話になった洋子たちに頼まれれば、断れず頷くんじゃないかと。

そうしたらちえりは自分を――。

そんな風に思い、自分の席に戻ってからも表情を沈ませる篤紀に、コーヒーを配っていたちえりが気づく。
頬杖をつき、もう片方の指ではデスクをトントンと落ち着かなさそうに叩いている姿に、ちえりは唇をきゅっと結んでから近づいた。


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