社長に求愛されました
「私、例え社長が今不安に押しつぶされそうになってるメンタルの弱い人でも嫌いになんかならないですよ」
「嘘つけ。おまえ、この間テレビで彼女が浮気してるかもしれないって心配してる男見て、女々しいって嫌そうに言ってたじゃねーか」
「ああ、確かに女々しい男の人は嫌いですね」
「ほらみろ、嘘ついてまで慰めてんじゃね……」
「でも、その男の人は社長じゃなかったから」
そう微笑んだちえりを、篤紀が驚いた瞳で見つめていた。
まるで、社長は特別とでも言っているような言葉が信じられず、ただ何も言わずに見つめてくる篤紀にちえりがにこりと微笑む。
その微笑みに、思わず篤紀が手を握り返そうとした時。
今の今まで触れていた手は離れ、トレーを抱えるように持ったちえりが給湯室に戻っていく。
その後ろ姿を、手を握れなかった事への不発感に肩すかしでもくらった気分で見つめている篤紀。
そんな様子を、顔半分だけ振り返ったちえりが笑う。
いたずらっ子のような笑みを向けられた篤紀は、不貞腐れたい気持ちだったのにそういうわけにもいかず……。
ふっと笑みをこぼしてからちえりの運んできたコーヒーカップに手を伸ばしたのだった。