社長に求愛されました


綾子がこの会計事務所に入ったのは四年前で、ちえりの二年先輩にあたる。
歳も26歳と、20歳のちえりとは社内で一番歳が近い事もあり、ちえりが入社して一ヶ月が経った頃にはすっかり打ち解ける仲になっていた。

肩下までの長さの髪はふたりとも同じだが、ちえりは元々茶色がかっている髪を染める事もパーマをかける事もせず、ストレート。
一方の綾子は黒髪で緩いふんわりとしたパーマをかけていた。

「でも、まさかよね。社長が高瀬連れて行くとは思わなかったわ」

呆れ笑いをこぼしながら言う綾子に、ちえりが顔をしかめる。

「私ただのバイトなのにありえないですよね……。プリンスホテル・Kって一流ホテルなのに、そういうの甘くていいんでしょうか」
「社長のお父さんの独断でしょ、きっと。
まぁでも、よくよく考えると、社長が高瀬を置いていく方が考えられないって言えばそうなんだけどね。
社長、高瀬が近くにいなかったら仕事できないでしょ。死活問題よね」
「おおげさですよ。大体、会社の社長がそんなんじゃ困りますし」
「そうなんだけどねぇ。社長、高瀬が入ってきてから高瀬にひどい入れ込みようじゃない?
ここだけの話、社員全員、若干ひいてるわよ。
こないだも、高瀬がそのうちありとあらゆる貴金属とブランド品身に着けて出社してくるんじゃないかって話してたのよ」
「……私、対価要求して一緒にいるわけじゃないですからね?
綾子さんと違って、賭け事も好きじゃないですし」


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