社長に求愛されました


しばらく、沈黙が流れた。
カチカチと秒針の音が静かに部屋に落ち、それをただ聞いていたちえりだったのだが。

何も話さない洋子に不安を覚え、そっと視線を上げ……驚いた。

ガッカリさせたかもしれない。
何を勝手な……と怒らせたかもしれない。

そう思っていたのに、視線の先にいる洋子は……穏やかな表情で微笑んでいて。

驚くちえりに、洋子は微笑んだまま口を開く。

「初めてね。ちえりちゃんがこうしたいって自分の意思を通すのは」
「……え?」
「大学に行くかどうかの時も、フリーターになるって意思を通してはいたけど、それは私たちに負担を掛けないためだったから。
こんな風に、ちえりちゃん自身が望んで意思を通したのはこれが初めてよ。
ちえりちゃんは本当に、何でも飲み込んじゃう子だったから」

寂しそうに表情を崩すのを見て、ちえりが「ごめんなさい……」と口にすると、洋子が首を振る。


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