社長に求愛されました


「責めてるわけじゃないのよ。ちえりちゃんは子どもの頃から気遣いのできる子で自分の気持ちは後回しって事が多かったけど……お姉ちゃんが亡くなったのをきっかけにますますそういう傾向が強まった風に感じてたの。
慎司くんはまだ自分の意思をはっきり言ってきてくれるけど、ちえりちゃんはお姉ちゃんって立場もあるし甘える事をできなかったのよね。
いつでも周りの事ばかり考えて……だから、もう少し自分の気持ちを優先して考えてくれるといいなって、ずっとお父さんともそんな話してたのよ」
「おばさん……」
「歩の事は、半分冗談みたいなものだから気にしないで。
ただ、ちえりちゃんがあまり恋愛に興味がなさそうだったから、だったらと思っただけなのよ」

洋子はそう笑ったが……実際のところは本気だったんじゃないだろうかと考え、ちえりが眉を寄せていると。
そんなちえりに、洋子が笑みを浮かべ……瞳に涙を滲ませる。

「ちえりちゃんは、歩と結婚するのが恩返しだなんて言ってたけど……私にとっては、ちえりちゃんが心の底から大事だって思える人ができた事の方が嬉しいのよ。
それを、こんな風に話してくれた事の方が……よっぽど恩返しよ」
「おばさん……」
「本当に、嬉しいわ……」

「あら、やだ。もう年ね」などと笑いながらこぼれる涙を拭う洋子に、ちえりの瞳にも涙が……浮かんだのだが。
涙を拭き終わった洋子がキラキラと目を輝かせたのを見て、それが止まる。





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