社長に求愛されました


「夜分遅くにすみません。
店頭にいらっしゃったご主人に通して頂いたんですが……」
「いえ、時間は気にして頂かなくて大丈夫ですけど……ちえりちゃんに用事かしら?」

篤紀とちえりが恋人関係にあると知らない洋子は、篤紀が訪ねてきた理由が分からずに不思議そうに首を傾げる。
洋子からしたら、篤紀に対してちえりの働く会社の社長さんという認識しかないのだから、篤紀が訪ねてきた理由が仕事関係だと思うのは当たり前だった。

そんな洋子を気にしながら、ちえりが立ち上がり篤紀に近づく。
そして。

「どうしたんですか? もしかして、私がちゃんと断れるか心配で……?」

スーツの腕部分を掴み、まさかという表情で聞くちえりに、篤紀は「いや……まぁ、それもあるけど」と曖昧に誤魔化す。
篤紀の態度に、それもあるけどとはどういう事なのかを聞こうとしたちえりだったが。
すっと膝をついた篤紀に驚き、思わず声を失う。

膝をつき、そこにそれぞれ両手をついた篤紀が、キョトンとしてこちらを見ている洋子と視線を合わせ……。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。
黒崎篤紀といいます。
ちえりさんの働く会社の社長を務めさせて頂いてもいますが……今日は僕個人として伺わせて頂きました」


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