社長に求愛されました
驚いた表情を隠せない洋子が「あの……ご実家のホテルというのは……」と聞き返す。
篤紀の説明によれば、一日数社からお弁当を仕入れているという。
一社に50個頼んでいるとして、それを数社分……一体従業員の数はいくつなのだろうと考え、聞いた事だった。
にこりと微笑んだ篤紀が「プリンスホテル・Kです」と告げると、洋子は「え……っ」ともらしたきり、しばらく言葉を失い……それからちえりに視線を移した。
「ちえりちゃん……確か、会計事務所で働いてるのよね?」
「え……あ、うん。でも社長、プリンスホテル・Kの跡取り息子で、今は会計事務所にいるけどいずれはホテルに戻る予定で……」
「じゃあ……この話、本当なの? うちからお弁当50個って……」
信じられないといった表情で聞く洋子に、ちえりに代わって篤紀が「本当ですよ。ご検討頂けますか?」と微笑むと。
洋子の顔が一転し、これ以上ないほど嬉しそうな笑顔に変わった。
「検討もなにも、喜んで受けさせて頂きます……っ。
あのプリンスホテル・Kに納品だなんて……しかも週二で50食も……っ」
これでうちも安泰だわーと喜んでいた洋子が、ひとしきりそうした後、はたっと止まり篤紀を見る。
そして、わずかに眉を潜めた。