社長に求愛されました


「あの……申し出は大変嬉しいですが、なんでうちのお店に?
いえ、地元を大事にとおっしゃっているお父様のお話は分かったんですが、それにしたってうちは小さなお弁当屋ですし……。
そんなうちのお店がどうして黒崎さんの目に留まったのかと不思議で。
あ……もしかしてちえりちゃんが言ってくれたの?」

思いついたようにこちらを見る洋子に、ちえりが首を振る。

「ううん。うちがお弁当屋だって事は社長も知ってるけど……この話を聞いたのは、私も今が初めて」

まだ驚いたままのちえりが見ると、篤紀がそれに気づきふっと優しく微笑む。
その表情に、ああもしかしたら自分のためかもしれないと思った。

歩との縁談話を断る事に罪悪感を覚えていた事を、篤紀はきっと知っていた。
だからこそ、このタイミングで……フォローになるような話を持ってきたのかもしれない。

ホテル側の事情と丁度かみ合ったのだとすれば、少し身びいきしてくれたにしても、お弁当受注の件は分からなくもない。
けれど、このタイミングでというのは……恐らく、申しわけないという気持ちをどうにかして払拭しようとしてくれたのかもしれないとちえりが思う。

そして、もしかしたら、お弁当の話も無理に早めに進めてくれたのかもしれないと。


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