社長に求愛されました


なんだか自分と篤紀の関係を誤解されているようだと判断してちえりが釘を刺すと、綾子が失礼ねと笑う。

「私は賭け事が好きなだけで対価要求して男と付き合ったりしないわよ。金の亡者みたいに言わないでよ。
それに負ける賭けはしない主義だし、いい趣味でしょ?」
「そうでしょうか……。この間、社員の下田さんがインフルエンザにかかった時、何度まで熱が上がったかかけてましたよね?」
「心配はしてたもの。問題ないでしょ」

心配していればなんでもありというわけではもちろんない。
同僚が苦しんでいる中、そんな賭けをして楽しむのは不謹慎極まりないように思えたが、ちえりはあえて口をつぐむ。

口の立つ上、本当にちっとも悪く思っていない綾子には、この手の話題で何を言っても無駄なのは分かっているからだ。
ちえり自身も賭けの対象にされた事もあるだけに、口出しする事はためらわれた。
さわらぬ神にたたりなしだ。

黙ったちえりに、綾子は珍しく早々に賭けの話題を引き下げて元に戻す。

「高瀬が社長から対価もらってるわけじゃないなんて事、分かってるわよ。ちゃんと付き合ってるんだものね。
それに、高瀬がそんな女じゃないって事も分かってるわ。でもね、社長のあの態度見てるとそうも思えてくるのよ」

分かるでしょ?と聞かれて、ちえりも篤紀の普段の行動を思い浮かべてみる事にする。
そしてものの数秒で、篤紀の自分への態度はまぁ過保護だなとすぐに判定を下す事ができた。

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