社長に求愛されました



ちえりが頷いてからは、驚くほどすんなりと話が済んだ。

歩との結婚を断れば、きっと洋子ががっかりするに違いない。
今まで受けてきた恩や期待を裏切る事になる。

そう思い、篤紀との事に頷いたまま顔を上げられなかったちえりの耳に飛び込んできたのは、洋子の明るい声だった。

『なによ、ちえりちゃん……黒崎さんなら黒崎さんってもっと早く言ってくれればよかったのに!』

喜んでいるようにも聞こえる声にちえりが顔を上げると。
そこには、声と同じように明るい表情で笑う洋子がいて。

『ずっと心配してたのよー。ちえりちゃん、恋愛に対して淡泊だからそういう相手ができなかったらどうしようって。
それに……ちえりちゃん、私たちを大切にはしてくれるけど、本音でぶつかってきてくれた事はなかったから。
そういう部分もずっと心配だったの』

洋子の話によれば、歩との事は本当に真剣に考えていたわけでもなく、ただ冗談半分で持ちかけただけだったという。
もしも、ちえりが誰でもいいと思っているなら、誰かろくでもない男に捕まる前に、歩と考えてみるのもいいんじゃないかと思いたち、持ちかけてみただけだと。

それが本当だと、洋子は何度も念押しするように話した。




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