社長に求愛されました
もちろん、そうなればずっとちえりと一緒に暮らしていけるという事を期待していなかったわけではなかったらしいが……。
それよりも何よりも、ちえりに大切な人ができた事、そしてそれをこうしてはっきりと伝えてきてくれた事が嬉しいと、最後には涙を流し笑っていた。
そうしてひとしきり泣き笑いをした後、わくわくと音が聞こえてきそうな瞳でちえりと篤紀を見てきて。
そこから芸能リポーター並みのインタビューが始まった事は言うまでもない。
「……すみませんでした」
ちえりが、アパートまでの道を歩きながら言う。
空には明るい月が出ていて、細い道を照らしていた。
「おばさん、いい人なんですけどああいう話が大好きなので……不愉快な思いさせちゃってたらすみません」
ちえりがチラっと視線を向けると、隣を歩く篤紀が苦笑いを浮かべる。
「いや、不愉快ではないけどなんつーか……インパクトのある人だよな」
「今度帰ったらまた質問攻めかと思うと気が重いです」
同じように苦笑いを浮かべたちえりが、鞄の中から部屋の鍵を取りだす。