社長に求愛されました


「じゃあ、俺はここで帰るかな」
「え……」

篤紀の言葉に顔を上げれば、もうアパートの前で。
いつもなんだかんだ言いながら上がっていくのに……という顔で見るちえりに、篤紀が困ったように眉を寄せ笑う。

「寄ったら多分手出すし、自粛しとく」

最初はぽかんとしていたちえりだったが、その意味を理解した途端、顔を赤くする。
そんなちえりにふっと笑った後、近づき軽く触れるだけのキスをした篤紀が「じゃあ明日な」と離れようとするも。

スーツの袖のあたりを掴むちえりの手に止められる。

「ちえり?」

俯いたまま、でもしっかりと掴むちえりの顔を覗き込もうと、篤紀が身体をかがめようとした時。
ちえりが顔を上げ……篤紀を見上げた。

「帰らないで……まだ、一緒にいたい」

緊張しているのか、目を潤ませ懇願するような表情で見上げてくるちえりに、篤紀が困り戸惑う。

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