社長に求愛されました



「ちえり。こっち向けって」

何今更照れてんだよと言う篤紀に、ベッドに横になったまま背中を向けているちえりが布団で顔を隠す。
同じベッドの上で、ふたりして同じ方向を向いている状態だ。

「ちょっと放っておいてください……。自己嫌悪中なんですから」
「なんだよ、自己嫌悪って」
「篤紀さんを……自分から誘ったりした事です。なんか、はしたない真似しちゃって恥ずかしいし反省中なんです」

だから放っておいてくださいと言うちえりの、布団から覗く耳は真っ赤で。
さっきまであんなに夢中になって求めてきたくせに今更、と思いながらもそんなちえりが可愛く、そして嬉しく。
篤紀が笑みをもらす。

はしたないなんて思わないし、もっと積極的に誘ってくれても構わないのにと。

正直な話、ちえりならなんでもいいのだ。
よく、恋人同士の会話でどこを好きになったのかだのというものがあるが、篤紀の場合、ちえりの存在自体に惚れ込んだというのが正しい答えだろう。

柔らかくも強かで、芯があり。真面目で真っ直ぐで、お人よしで、悪く言えば頑固な内面。
そして、どこまでも可憐でどこか儚い外見。
長く伸びたきれいな髪に、ほっそりとした足。

惹かれている部分を挙げればキリがないが、そういう事ではなく……とにかくすべてが愛しくて仕方ない。
失ったら狂ってしまうと自信を持って言えるほどに。





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