社長に求愛されました


「でも、関係はハッキリさせられないくせに、社長に迫られると断れなくて。
いつも隣にいるし、付き合ってるとか関係なしに、もう社長は私の中で大切な存在になってるんだって分かって……。
だったら、ちゃんと社長と向き合いたいって思って……覚悟を決めたんですけど」
「けど?」

語尾が気になって聞いた綾子を、ちえりがじっと見つめる。

「今回の異動の話、時期は未定ですけど、社長がホテルに行くって事は、家業を継ぐ決意をしたって事だと思うんです」
「ああ、確かにね」
「だから、私なんかに構ってるんじゃなくて、ちゃんといい人を探した方がいいんじゃないかなって。
社長は、そういうの気にしない家系だから自分も好きな人と自由に結婚するって言ってたけど……」
「まぁねぇ。お金持ちのレベルが高すぎるからさすがに考えるわよね。
結婚ってなると、家同士の問題にもなるわけだし」

綾子の言葉に、ちえりは目を伏せたままきゅっと口の端を引き締める。

「例えば……本当に例えばの話で、先の話でもあるんですけど」

そう慎重な前置きをしたちえりが、淡々とした口調で続ける。





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