社長に求愛されました


「社長と結婚するとして、結婚式とか盛大に上げるとして……。
私に両親がいない事とかがその場で分かれば、なんでいないのかって話になると思うんです。
それを社長の親族や周りの人が知った時、社長の立場を悪くしてしまう気がして……」
「お父さんの事……?」
「……はい」

篤紀の気持ちを受け入れてしっかり向き合おうと考え始めたのは、異動の話が出る少し前だった。
踏み込んだ関係になるのは、その後くるかもしれない別れを考えると怖かった。

距離を縮めたりしたら、いつかそれが遠く離れてしまう事だってあるのだから。
だったらそんな関係にはならずに、今のままずっと傍にいられたら。そう何度も考えた。

だけど、それでも……。
篤紀と時間を過ごせば過ごすほど気持ちは大きくなり、真っ直ぐな態度で示してくる篤紀の気持ちを無視するのが苦しくて仕方なくなってしまって……。
漠然とだが、篤紀ならずっと傍にいてくれるんじゃないかと、そんな風に期待している自分もいた。

出逢った時から態度に全面的に表して好意をぶつけてきたのは篤紀の方だが、ちえりにだって感じるものはあったのだ。



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