社長に求愛されました
「妻と子供を残して蒸発したって聞けば、いい顔をする人なんていないのは、今までの経験で分かってます。
直接的に何かを言う人は少ないかもしれない。
けど……私の父の事が、社長のプラスになる事は絶対にないから」
ちえりには、どう考えても自分の存在が篤紀のプラスになるとは思えないのだ。
釣り合わない。ハッキリとそう思っていた。
そしてそれは自分だけじゃなく、篤紀を取り巻く人物みんなが思う事だろうと、簡単に想像がつく。
篤紀は自由な家系だからとは言っていたけれど、例え篤紀の父親が認めてくれても周りは陰で何かを言うに決まっている。
きっと、黒崎家にとってはマイナスだ。
「随分先の事まで考えてるのね」
呆れたように微笑んだ綾子に言われて、ちえりは何も返さずに視線だけを綾子に向けた。
ちえりの言っている事は綾子もよく理解できたし、その通りだとも思った。
普通の家柄の男女の結婚でも、親がいないという事やその理由で毛嫌いする人間はいる。
それがホテル界に名を連ねる大企業の御曹司の相手となれば、周りがきっと黙ってはいない。