社長に求愛されました
だけど……それを分かっていても、ちえりの言葉に頷くのは嫌だった。
無責任だが、ふたりにはうまくいって欲しいのだ。
篤紀の気持ちを毎日のように見ている社員の一員として。
そして、篤紀とちえりならそういった壁も乗り越えてうまくいくんじゃないかという、漠然とした期待も綾子の中にはあった。
理屈じゃなく、ただ外見的にお似合いだとかそういう事でもなく。
ふたりが並んでいるところが、当たり前であって離れたらふたりとも壊れてしまうような、そんな気さえするほどしっくり合っているのだ。
一年間ふたりを見守ってきた綾子だからこそ、思う事だった。
「ちゃんと先の事まで考えられるのはいい事だけど、たまには盲目にならないと疲れちゃうわよ。
それに高瀬はまだ20なんだから。若さゆえの過ちで何でも許されるうちは感情に従った方がいいんじゃない?」
「……たまにそうも思うんですけどね。感情のまま走れたらって」
「じゃあ走ればいいじゃない。
社長は子どもっぽいところもあるけど、好きな女守るくらいの度量はある人よ。高瀬が頼れば社長は全部受け止めてくれるに決まってる。
それくらい、高瀬も分かってるんでしょ?」
首を傾げる綾子に、ちえりは困り顔で微笑んでから目を伏せる。