社長に求愛されました
そこまで仕事があるのか疑問だったのは最初だけで、趣味で日商簿記二級をとるようなちえりは仕事の飲みこみも速く、それなりの仕事を任せてもらえるようになり、仕事中する事がなく暇だと感じる事はほとんどなかった。
ちえりに仕事が回るのは、もし暇を持て余し給料分の仕事をできていないと判断されたらきっと、ちえりは辞めてしまうと考えた、篤紀の指示でもあったのだが。
「ちえり、明日暇か?」
金曜日の夕方五時、帰り支度をしていたちえりに、黒い皮張りの社長椅子に座ったまま篤紀が声をかけた。
「明日? 土曜日ですよ。仕事あるんですか?」
「仕事っつーか、取引先のレセプションパーティーがあるから」
「レセプション……?」
「進展とかそういう意味合いのパーティー。まぁでも今回のは結婚式の二次会みたいなもんだけどな。
白石出版の専務の息子が結婚したとかで、その披露」
「へぇ……。監査してるだけなのに、そんなパーティーに呼んでくれるなんてすごいですね」
ちえりが感心してそう呟くと、隣の席の綾子が笑う。