社長に求愛されました
「本当ならありえない事よ。多分、あちらさんが黒崎社長と親密になりたいんじゃない?
ほら、白石出版の社長の娘さん、覚えてない?」
「あ、覚えてます。髪の長い方でしたよね」
「そう。確か和美さんっていったと思うけど。
和美さん、黒崎社長に気があるみたいだから、無理やりねじ込んだのよきっと。
じゃなきゃ、監査任せてるからなんて理由で誘わないもの。
社長同士が仲がいいとかなら話も別だけど」
そう言って苦笑いを浮かべる綾子が言わんとしている事が分かって、ちえりもああと同じような笑みを浮かべた。
篤紀は誰とも友好的に話そうとしない。
だから取引先で仲がいいなんて言える人物はいないに等しいのだ。
マスコットのくせに愛想が悪いとはどういう事だとも思うけれど、篤紀の場合それが許されてしまうのだから仕方ない。
「え、和美さんって言うんですか? 白石和美?」
篤紀の不調和営業に苦笑いを浮かべていたちえりが、ひとつ前の綾子の言葉を思い出し、ハっとしたように和美の名前を口にした。