社長に求愛されました
「だから、異動だって言ってんだろ」
「だから、異動って言われても異動する先がないじゃないですか。大体、バイトなのに異動して正社員っておかしいし。
……社長、暇つぶしにからかうのやめてもらえませんか。私は雑用とかあるので社長みたいに暇じゃないんですよ」
「からかってねーよ。おまえ、異動」
社長なのに、バイトであるちえりに、私は社長みたいに暇じゃないと言われているのにそれはスルーでいいのかという事はおいておいて。
尚も異動だと言い張る篤紀に、ちえりは少しイライラしながら、この人外見はいいんだからこの横柄な性格をどうにかすればいいのにとため息をもらす。
黒崎会計事務所の社長を、二十八歳という若さで勤めている篤紀は、かなりの美形だ。
身長は180近く、すらっとした体型に、モデル並みかそれ以上の顔が乗っかっている。
あまり愛想がよくないところは事務所社長としては玉に傷ではあるが、それも相手企業の担当者が女性である分には何の問題もないし、そのへんは仕事の速さで簡単に挽回ができるだろう。
ほぼ万人受けするんじゃないかという容姿は仏頂面でも決まって見えるし、社長という役目を任せられた当初はぎこちなかった愛想笑いも、それなりに見られるようにはなっていた。
そんな社長を隣に置いて丁寧かつ迅速な仕事をこなす社員のおかげで、黒崎会計事務所への仕事依頼はうなぎのぼり状態だ。
マスコットキャラなんて可愛いものじゃないのは確かだが、黒崎篤紀は色んな意味で黒崎会計事務所の顔だった。